足立美術館の庭園をつくった設計者とは?紅葉の見頃や庭の構成も紹介

足立美術館の枯山水と石の庭園画像 日本庭園の作り方

足立美術館の庭園は、国内外から高い評価を受け、「世界一の日本庭園」と称されるほどの美しさを誇ります。その完成度の高さには、ある一人の作庭家の存在が深く関わっています。世界に誇る足立美術館の庭園を造った設計者の名前だけではなく、その人物や庭園の背景に興味を持っている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、足立美術館の庭園を手がけた設計者・中根金作の人物像や作風、館の創設者・足立全康との関係、さらには紅葉の見頃や庭園の構成美、アクセス・料金・バリアフリー情報に至るまで幅広く解説していきます。

紅葉が映える庭園をじっくり鑑賞したい方や、日本庭園の設計思想に関心のある方にとって、この記事が理解の助けになれば幸いです。

記事のポイント
  • 設計者・中根金作の経歴と作風
  • 足立全康との出会いと庭園づくりの背景
  • 借景や庭園構成に込められた設計思想
  • 各庭園の特徴と紅葉シーズンの見どころ

足立美術館の庭園を作った設計者とは?

足立美術館の枯山水と石の庭園画像
枯山水:wikipedia
  • 中根金作とは何者か?作風と経歴
  • 足立全康と中根金作の出会い
  • 借景という発想がもたらす景観美
  • 枯山水・苔庭・白砂青松庭の特徴

中根金作とは何者か?作風と経歴

中根金作の写真帖
中根金作氏:磐田のお宝見聞帖

中根金作は、昭和を代表する作庭家の一人であり、「昭和の小堀遠州㊟」とも称される人物です。伝統的な日本庭園の美意識を守りながらも、現代的な要素や国際的な視点を取り入れた独自の作風が特徴です。

彼の経歴は造園一筋ではなく、はじめは外資系企業で図案の仕事に携わっていました。その後、庭園への情熱を捨てきれず、東京高等造園学校(現・東京農業大学)で本格的に学び直します。

戦時中は京都府で園芸技師として文化財庭園の保護にも従事しました。これが後の作庭哲学に大きな影響を与えたとされています。

作風の特徴としては、「自然との調和」と「絵画的構成」にあります。単に草木や石を配置するのではなく、周囲の風景や建物との一体感を重視します。また、視点の移動によって印象が変わるよう計算された構成美も、中根作品の魅力です。

ただし、彼の作庭は徹底した現場主義でもあり、図面通りに作れば良いという発想ではありませんでした。実際の地形や気候、素材を見極め、即興的に手を加える柔軟さも持ち合わせていました。これは職人や庭師との信頼関係があってこそ成り立つスタイルです。

このような姿勢は、足立美術館の庭園でも遺憾なく発揮され、世界に誇る日本庭園として高い評価を受ける要因となっています。

小堀遠州:江戸前期の茶人・造園家

足立全康と中根金作の出会い

足立全康と中根金作の出会いは、日本庭園の歴史における重要な転機ともいえるものです。この二人の出会いがなければ、現在の足立美術館の庭園は存在しなかったかもしれません。

足立全康は、実業家として成功した後、郷里への恩返しとして美術館を建てることを決意しました。その際に、日本画とともに日本庭園を重視した理由は、少年時代に見た雲樹寺の枯山水庭園に感動した原体験にあります。

そして、彼の理想とする「絵画のような庭園」を実現できる作庭家を探す中で出会ったのが、中根金作でした。

中根は、単に庭を「造る」職人ではなく、庭に思想と美学を宿す人物でした。足立全康の「庭園もまた一幅の絵画である」という理念に深く共感し、二人の方向性はすぐに一致します。中根は作庭だけでなく、庭の維持・更新まで見越した構想を提案し、総敷地5万坪に及ぶ大庭園の設計に着手しました。

ただ、この協働は決して順風満帆ではなかったといいます。美意識のぶつかり合いや予算の問題もあった中で、両者は時間をかけて理想の庭園を作り上げました。足立全康の「完璧主義」と中根金作の「自然との対話」は、衝突しながらも融合し、結果として世界的評価を受ける名園が完成したのです。

このように、出会いから設計、完成まで、互いの哲学が支え合ったことで、足立美術館は唯一無二の芸術空間となりました。

借景という発想がもたらす景観美

足立美術館の池庭の庭園写真
池庭:wikipedia

借景しゃっけいとは、庭園の背景にある自然の山や林などを取り込み、あたかも庭の一部であるかのように見せる造園技法です。この考え方は、日本庭園特有の美意識を象徴するものといえます。

足立美術館においても、この借景は庭園設計の要です。庭そのものは人工的に作られていますが、その背景には「勝山」や「亀鶴山」など自然の山々が巧みに組み込まれており、鑑賞者には一続きの風景として認識されます。視線の先にビルや電柱など人工物が映り込まないよう、細部まで計算されている点も見逃せません。

このように、借景はただ風景を借りるだけでなく、調和と一体感を演出するための高度な技術です。視覚的な奥行きを生み出し、鑑賞者に広がりと静けさを同時に感じさせます。

一方で、借景には注意点もあります。自然環境の変化によって景観が損なわれるリスクがあるため、長期的な管理と周囲との協力が不可欠です。足立美術館では、近隣の山の所有者と交渉を行い、視界を守る取り組みまで行われています。

借景を取り入れることで、庭園は単なる「庭」を超え、「風景芸術」として成立します。足立美術館の庭園美が際立って見えるのは、この発想が徹底されているからこそです。

枯山水・苔庭・白砂青松庭の特徴

足立美術館には複数の庭園がありますが、その中でも代表的なものが「枯山水庭」「苔庭」「白砂青松庭」です。それぞれに異なる趣があり、訪れる人々を魅了しています。


枯山水
まず、枯山水庭の特徴は、水を使わずに自然の風景を表現している点にあります。白砂で川の流れを、立石で山の峰を象徴するこの様式は、禅の思想とも深く関わりを持っています。足立美術館の枯山水庭では、「勝山」という山を借景とし、人工の滝が白砂へと注がれる構図によって雄大な山河の景色が描かれています。中根金作は、この借景を含めた構成で、絵画のように完成された風景を作り出しました。


苔庭
次に苔庭ですが、こちらは苔が主役のしっとりとした空間です。枯山水庭の入口近くに位置し、芝ではなくスギゴケなどの苔類で地面が覆われています。静寂さや落ち着いた雰囲気を感じさせるこの庭には、鎌倉時代の十三重石塔もあり、歴史的な趣も魅力の一つです。また、苔は湿度や日照などの環境条件に敏感なため、日々の丁寧な管理が欠かせません。


白砂青松庭
最後に白砂青松庭は、横山大観の名画『白沙青松』にインスピレーションを受けて作られた庭園です。なだらかな築山に多くの黒松や赤松が植えられ、白砂の地面とのコントラストが美しく保たれています。足立全康が「絵のような庭園」を目指して設計を依頼した背景が、この庭に色濃く反映されています。庭に使われている石は「佐治石」という高級なもので、細部にまでこだわった作りです。


このように、それぞれの庭園は異なるテーマと構成で成り立っており、見る角度や時間帯によっても印象が変化します。繰り返しますが、これらの庭園を一体で鑑賞することで、足立美術館ならではの「庭園もまた一幅の絵画である」という理念を体感することができるのです。

秋に映える足立美術館の紅葉庭園

  • 紅葉が映えるエリアと庭園構成
  • 紅葉の見頃と混雑を避ける時間帯
  • 和モダン建築と自然の調和を体感
  • 館内から楽しむ「生の掛軸」の仕掛け
  • 見学に必要な所要時間と過ごし方
  • アクセス・料金・バリアフリー情報

紅葉が映えるエリアと庭園構成

足立美術館では、庭園ごとに紅葉の見え方や雰囲気が異なるため、それぞれの特徴を理解しておくとより深く楽しめます。紅葉が特に映えるのは、「枯山水庭」「池庭」「苔庭」の3つのエリアです。

枯山水庭では、背景にそびえる勝山の紅葉が見事に借景として取り込まれており、白砂との対比が鮮やかです。石組みや滝と紅葉が織りなす風景は、まさに絵画のような仕上がりとなっています。美術館の正面から広がるこの主庭は、館内からガラス越しに鑑賞できるため、天候に左右されず楽しめるのも魅力です。

一方、池庭は紅葉の映り込みを楽しむのに適した場所です。水面に写る赤や黄色の葉は、実際の風景と合わせて二重に美しく感じられます。池の周囲には小路もあり、歩く角度によって景色が変わるため、時間をかけて回るのがおすすめです。

苔庭は、紅葉と緑の対比が楽しめる静かな空間です。杉苔の深い緑の上に赤く染まったもみじが重なる様子は、他の庭園とはまた違った趣があります。茶室や石塔などの要素も点在しており、和の情緒を感じるには最適な場所です。

このように、足立美術館の庭園構成は、紅葉の美しさを最大限に引き出すよう計算されています。それぞれの庭が異なる役割と景観美を持ち、どのエリアでも紅葉の魅力を存分に楽しむことができます。

紅葉の見頃と混雑を避ける時間帯

足立美術館の紅葉は、例年11月中旬から12月上旬にかけてが見頃となります。この時期は特に人気が集中するため、来館時間の選び方がとても重要です。

紅葉の色づきは、最初に苔庭や玄関付近から始まり、徐々に枯山水庭や池庭へと広がっていきます。そのため、11月下旬から12月初旬にかけてが、すべての庭園で美しい紅葉が揃う時期といえるでしょう。ただし、天候によって葉の落ちる時期が早まることもあるため、事前に美術館の最新情報を確認しておくことをおすすめします。

混雑を避けたい場合は、平日の朝一番に訪れるのが最も有効です。特に開館直後の9時台は、団体ツアーが到着する前の静かな時間帯であり、ゆったりと紅葉を鑑賞することができます。また、正午前後や閉館1時間前の16時ごろも比較的空いている傾向にあります。

一方で、土日祝日や連休中は終日混雑が見込まれます。駐車場には余裕がありますが、観光バスが連なる場合もあるため、時間に余裕を持って行動することが大切です。

このように、足立美術館の紅葉は時期と時間を選べば、より快適に、そして印象深く楽しむことができます。

和モダン建築と自然の調和を体感

足立美術館の魅力は庭園や美術品だけにとどまりません。館内の建築そのものにも注目すべき価値があります。和とモダンが融合した設計は、自然と建物が互いを引き立て合うようにデザインされています。

建物の外観は、かつての山城「月山富田城㊟」をイメージした白い壁面が特徴的です。この静謐なデザインは、緑の庭園や紅葉の風景と美しく調和しています。派手さを抑えた設計だからこそ、自然の色彩がより一層引き立つ構造になっているのです。

館内では、ガラス越しに庭を一望できる空間が多く設けられています。これは、「庭園を歩かずとも絵のように鑑賞できる」ことを重視した設計思想によるものです。特に、窓枠を額縁に見立てた「生の額絵」や、「生の掛軸」などは、室内にいながら自然との一体感を味わえる斬新な仕掛けとなっています。

モダンな空間であっても、過度な機能性やデジタル要素を持ち込まず、あくまで日本的な静けさと余白を大切にしている点も見逃せません。これによって訪れる人は心静かに美と向き合える環境が整えられています。

このように、足立美術館では、建築そのものが庭園とともに一つの芸術作品として成り立っており、「見る・感じる・過ごす」という体験が自然と繋がっています。空間全体で和の美を体感したい方にとって、これほど理想的な場所はそう多くありません。

㊟「月山富田城」は戦国の覇者・尼子氏の居城として知られ、幾重にも連なる断崖絶壁の砦が築かれ、麓を外堀のごとく飯梨川が流れるため、山そのものが天然の要害となっている難攻不落の城。

館内から楽しむ「生の掛軸」の仕掛け

足立美術館の「生の掛軸」は、掛け軸を模した壁の穴から庭園を鑑賞するユニークな仕掛けです。館内にある床の間のような壁には縦132 cm・横74 cmの穴が開けられています。そこから見える庭は、まさに掛軸が自然とともに生きているかのような空間です。

人工の絵画ではできますない、生きた風景が「生の掛軸」から連続していく景色は、季節ごとの庭との一体感を味わうための設計です。ただし、この景観を楽しむには、なるべく早めの来館が望ましいです。日が傾くと室内の照明が映り込みやすくなり、せっかくの自然美が曇って見えることがあります。

この仕掛けは、庭を眺めつつも室内で静かに過ごせる工夫がされています。ガラスの曇りや汚れは日々スタッフが手入れしていて、いつでもクリアな視界を保っています。まさに建築と庭園を融合させた“動く掛軸”のような演出といえるでしょう。

見学に必要な所要時間と過ごし方

足立美術館の庭園と展示をゆったり楽しむには、少なくとも2時間は見ておくのがおすすめです。日本庭園だけでなく、横山大観や北大路魯山人の作品も鑑賞できるので、全体を回るには少し余裕が必要です。

まずは、館内の展示作品を軽く見てから庭に向かうとバランスが良くなります。特に「枯山水庭」「池庭」「苔庭」「白砂青松庭」などを巡る際には、庭ごとに10〜15分ほど時間をかけると、紅葉や借景の微妙な変化に気づくことができます。

途中で館内の喫茶室や休憩所を利用すると、屋外とは違う視点から庭園を鑑賞できます。飲み物を楽しみながら、ガラス越しに庭の色づきをゆっくり味わうのもおすすめです。

時間に余裕があれば、新館や魯山人館にも足を伸ばすとさらに充実します。当日急ぐスケジュールでは1時間ほどでも見られますが、「一期一会」の思いでゆったり佇む時間を意識すると、より深く堪能できるでしょう。

アクセス・料金・バリアフリー情報

足立美術館は、公共交通機関でも車でもアクセスしやすい立地にあります。施設内のバリアフリー対応も整っており、どなたでも快適に過ごせる環境が整えられています。

■アクセス方法

交通手段詳細
電車+バスJR安来駅から無料シャトルバスで約20分
自動車山陰道 安来ICから約10分
駐車場普通車400台・大型バス30台まで駐車可(無料)

※紅葉シーズンや連休中は早めの到着がおすすめです。

■入館料(税込・2025年4月1日改定)

区分個人団体(20名以上)
大人2,500円2,200円
大学生2,000円1,700円
高校生1,000円800円
小中学生500円400円

支払い方法:

  • クレジットカード(主要ブランド対応)
  • iD(電子マネー)

割引制度:

  • 下記の方は個人料金の半額となります
    • 身体障がい者手帳
    • 療育手帳
    • 精神障がい者保健福祉手帳
    • ミライロID
  • ※重度等級の方には介護者1名も半額

■バリアフリー対応

以下のようなサポートが整っているため、高齢者やお子さま連れの方、車いす利用の方も安心して利用できます。

館内の主な配慮事項:

  • 多目的トイレ:本館・新館それぞれに設置
  • 車いす貸出:7台(予約不可/無料)
  • ベビーカー貸出:3台(予約不可/無料)
  • 駐車場内に障がい者用スペース8台分
  • 庭園には車いす対応の鑑賞ルートあり
  • 館内は段差が少なくフラット設計

注意点:

  • 貸出備品は先着順です。利用を希望される場合は、早めの到着がおすすめです。

このように、足立美術館はアクセスの良さに加えて、多様な利用者への配慮が行き届いています。紅葉シーズンは特に人気が集中するため、事前の計画を立てての来館が安心です。

足立美術館の庭園と設計者の魅力まとめ

  • 中根金作は昭和を代表する作庭家で「昭和の小堀遠州」と呼ばれる
  • 外資系勤務を経て造園の道へ転身し、文化財庭園の保護にも関わった
  • 作風は「自然との調和」と「絵画的構成」を重視する
  • 図面より現地を見て即興で調整する現場主義を貫いた
  • 足立全康の理念「庭園もまた一幅の絵画である」と深く共鳴した
  • 両者の協働により総敷地5万坪の庭園設計が実現した
  • 借景を最大限に活かし、遠景と一体化した景観を演出している
  • 借景の維持には山の所有者との交渉や管理体制も整えられている
  • 枯山水庭は白砂と石組で山河を表現し、勝山を借景にする
  • 苔庭は苔の緑と紅葉の対比が美しく、石塔が和の趣を添える
  • 白砂青松庭は横山大観の名画に着想を得て松と白砂で構成される
  • 紅葉のピークは11月中旬〜12月上旬で、苔庭から順に色づく
  • 混雑を避けるには平日の朝9時台の来館が望ましい
  • 建物全体は和モダン建築で、自然との融合を意識した設計
  • 館内の「生の掛軸」は風景を切り取る仕掛けで来館者を魅了する

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