日本庭園は、単に美しい景観を楽しむだけの空間ではありません。そこには長い歴史の中で培われた思想や文化、自然観が織り込まれており、庭園様式とはまさにそれらをかたちにした表現のひとつです。日本庭園の種類には、池を中心に構成された池泉庭園、水を使わず石と砂で風景を描く枯山水、そして茶の湯と深く関わる露地などがあります。
これらの庭園様式は、それぞれ異なる特徴と魅力を持ち、どのような思想に基づいてつくられたのかを知ることで、鑑賞の楽しみ方も大きく変わってきます。また、日本庭園の歴史をひもとけば、その時代ごとの価値観や生活様式も見えてきます。
本記事では、代表的な日本庭園の種類を初心者にもわかりやすく紹介しながら、庭の成り立ちや見どころ、日本庭園の特徴を解説します。四季折々の自然を映し出す日本庭園の魅力に触れ、庭を“観る”だけでなく“読む”楽しさを味わってみてください。
・代表的な日本庭園の種類とそれぞれの特徴がわかる
・庭園様式とは何か、その基本的な考え方が理解できる
・池泉庭園や枯山水、露地など各様式の違いと鑑賞方法が学べる
・日本庭園の歴史的背景と魅力の感じ方がつかめる
日本庭園の種類と鑑賞方法について
- 日本庭園の主な種類とは?
- 庭園様式とはどのようなものか
- 日本庭園における池泉庭園の特徴
- 日本庭園で見る枯山水の美しさ
- 茶の湯と深く関わる日本庭園の露地
- 四季を映す日本庭園の特徴とは
日本庭園の主な種類とは?

庭園の種類 | 特徴・解説 |
---|---|
池泉庭園(ちせんていえん) | 池を中心に構成された庭園で、回遊式・観賞式・舟遊式などがある。 |
枯山水庭園(かれさんすいていえん) | 水を使わず、石や砂だけで自然の風景を象徴的に表現する。禅宗寺院に多い。 |
露地庭園(ろじていえん) | 茶室に付属する庭。飛石やつくばいなどが配置され、侘び寂びの精神を表現。 |
築山林泉庭園(つきやまりんせんていえん) | 人工の山や林を取り入れた複合的な庭園。自然との調和を意識している。 |
縮景式庭園(しゅくけいしきていえん) | 実在する風景を縮小して再現した庭園。景勝地の象徴的な景色を取り入れる。 |
蓬莱式庭園(ほうらいしきていえん) | 仙人の住む理想郷を表現。蓬莱山や鶴亀島の石組などが用いられる。 |
浄土式庭園(じょうどしきていえん) | 仏教の極楽浄土を模した庭園。池と阿弥陀堂の組み合わせが特徴。 |
日本庭園にはいくつかの代表的な種類があり、それぞれに異なる趣や意味が込められています。まず基本となるのが「池泉庭園(ちせんていえん)」です。
これは池を中心に構成された庭園で、池の周囲を歩いて眺める「回遊式」や、建物の中から座って鑑賞する「観賞式」、舟に乗って庭全体を楽しむ「舟遊式」などがあります。水面に映る風景や、池を取り巻く石組・植栽が静かな調和を生み出します。
次に「枯山水庭園(かれさんすいていえん)」は、水を使わず、石や砂だけで山水の風景を表現する庭です。主に禅宗寺院で発展し、精神的な静けさや悟りの境地を感じさせる設計となっています。京都の龍安寺などが有名な例です。
「露地庭園(ろじていえん)」は茶室に付随する小さな庭で、飛石やつくばい、石灯籠などが配置され、茶道の精神である侘び寂びを体現する空間です。実用性と精神性が同居した、日本ならではの庭園様式です。
その他にも「築山林泉庭園(つきやまりんせんていえん)」のように人工の山や林を取り入れた複合的な庭園や、現実の風景を圧縮して表現する「縮景式庭園(しゅくけいしきていえん)」、仙人の住む理想郷を表現する「蓬莱式庭園(ほうらいしきていえん)」、仏教の極楽浄土を模した「浄土式庭園(じょうどしきていえん)」などもあります。
このように、日本庭園は単なる景観の美しさだけではなく、思想や文化、精神性を映し出す多様なスタイルで構成されており、それぞれの背景を知ることで、庭の見え方が大きく変わってきます。
庭園様式とはどのようなものか
庭園様式とは、庭をどのような考え方や構造に基づいて設計するかという「基本的な型」のことを指します。建築様式に近い考え方で、どのように空間を構成し、何を表現するかによって様式は大きく異なります。日本庭園における様式は、自然との共生や精神性の表現に根ざしたものが多く、欧米の幾何学的な庭園様式とは異なる特徴を持っています。
例えば「池泉庭園」は、広い池を中心に築山や橋を配置し、自然の景観を再現したスタイルです。一方「枯山水」は、水を一切用いずに石や砂で風景を表現する抽象的な様式で、禅の精神を反映しています。また、「露地」は茶室に至るまでの空間に配された実用性と精神性のバランスが特徴の様式です。
様式を知ることで、その庭園がどのような思想や目的で作られたかが見えてきます。これは鑑賞者にとって非常に重要な手がかりとなり、ただ美しいと感じるだけでなく、庭の背景にある文化や時代の空気まで感じ取ることができるようになります。
ただし、近代以降に造られた庭園では、複数の様式が融合されている場合も多く、必ずしも一つの様式に明確に分類できるとは限りません。そのため、鑑賞する際は一つの視点に固執するのではなく、柔軟に庭の構成要素や意図を読み取ることが大切です。
日本庭園における池泉庭園の特徴

池泉庭園とは、庭の中心に池を配置し、その周囲に自然の風景を模して構成された様式の庭園です。日本庭園の中でも最も古く、また広く発展したスタイルであり、平安時代から江戸時代にかけて多くの名園が築かれました。
この庭園の特徴は、何といっても「水」が主役である点にあります。池は海や湖を象徴し、そこに中島を設けたり、橋をかけたりして景観の奥行きを生み出します。さらに池の周囲には築山(人工の小山)や石組、植栽が巧みに配置され、訪れた人にさまざまな角度から異なる景色を提供します。
池泉庭園は、鑑賞方法によっても形式が分かれます。舟を浮かべて池上から景色を楽しむ「舟遊式」、園路を歩きながら景観の変化を味わう「回遊式」、建物の中から座って眺める「観賞式」などがあります。それぞれのスタイルによって見える景色や感じ方が異なるのが、この様式の奥深さです。
一方で、池泉庭園はある程度の広さが必要になるため、都市部の限られた空間では再現が難しいという側面もあります。また、水の維持管理には手間がかかるため、現代では維持が難しいとされる場合もあります。
しかしその反面、池泉庭園は訪れる季節や時間帯によって表情が変わるという魅力があり、水面に映る空や木々の彩りが幻想的な雰囲気を生み出します。
このように、池泉庭園はスケール感と自然美を兼ね備えた、日本庭園を代表する格式ある様式なのです。
日本庭園で見る枯山水の美しさ

枯山水とは、水を使わずに石や砂などで自然の風景を象徴的に表現する日本独自の庭園様式です。この様式は特に室町時代の禅宗寺院を中心に発展しましたが、現在でも多くの人を惹きつけてやまない独特の美しさを持っています。目に見える景観だけでなく、その背後にある精神性や思想も含めて鑑賞することで、枯山水の魅力はさらに深まります。
この様式では、川や滝の流れは白砂や砂利で表現され、岩や石は山や島、滝の岩肌などを象徴しています。水を使わずに水を感じさせるという表現手法は非常に洗練されており、見る人の想像力が大きく問われるのも特徴です。
京都の龍安寺石庭では、白砂の中に大小15個の石が配置されており、その意味は見る者によってさまざまに解釈されます。これが枯山水の持つ「完成しない美」であり、見るたびに新しい気づきがあるといえるでしょう。
一方で、抽象的な構成が多いため、初めて見る人には「どう見ていいのか分からない」という戸惑いもあるかもしれません。そうした場合は、どの石が何を象徴しているのか、庭全体がどんな風景を描いているのかをガイドブックなどで軽く知っておくと、鑑賞の楽しみがぐっと広がります。
また、枯山水は鑑賞する時間帯や季節によっても表情が変わります。特に月明かりや早朝の光が差し込む時間は、白砂がやわらかく輝き、空間全体が幻想的な雰囲気に包まれます。こうした静寂と陰影の中にこそ、日本の「わび・さび」の美意識が息づいています。
このように、枯山水は視覚的な美だけでなく、精神的な深みを味わうための空間として設計されており、日本庭園の中でも特に哲学的な魅力を持つ庭だと言えるでしょう。
茶の湯と深く関わる日本庭園の露地

露地(ろじ)は、茶室に付属する庭のことを指し、日本庭園の中でもとりわけ「茶の湯」との関係が深い様式です。この空間は、単なる庭ではなく、茶室へと至る“道”として設計されており、訪れる者の心を静め、日常から非日常の世界へと誘う重要な役割を担っています。
露地は「草庵の山居」という茶の湯の理想を表現するために考えられました。町中にいても山中にいるような静けさを感じさせるため、自然な石や苔、控えめな植栽などが意識的に配置されます。
過度な装飾は避けられ、簡素な美しさが追求されています。飛石、手水鉢(ちょうずばち)、蹲踞(つくばい)、石灯籠などの景物も配置され、機能性と精神性が共存する設計になっているのが特徴です。
この空間を通ること自体が、茶席に入る前の「心の準備」になります。例えば、蹲踞の前で手を洗い口をすすぐ動作には、身体を清める意味だけでなく、心を整える象徴的な意味合いも含まれています。この一連の動きによって、訪問者は日常生活の雑念を離れ、茶の世界に集中できるのです。
一方で、露地は狭い空間に多くの要素を詰め込む必要があるため、設計には高度なバランス感覚が求められます。また、見た目以上に手入れが重要であり、苔や石の配置がほんの少し変わっただけでも全体の雰囲気が損なわれることがあります。
そういった意味では、露地は小さな空間でありながら、日本庭園の奥深さと難しさが凝縮された様式だとも言えるでしょう。
茶の湯の世界では、「露地を見れば亭主の美意識がわかる」とも言われます。それだけに、露地は単なる通路ではなく、茶道の精神を映し出す鏡のような存在なのです。
四季を映す日本庭園の特徴とは

日本庭園の大きな魅力の一つは、四季折々の風景を映し出す繊細な構成にあります。春夏秋冬の移ろいが明確な日本の気候を背景に、日本庭園では季節の変化が感じられるような植栽や構造が丁寧に計画されています。そのため、同じ庭を訪れても、季節ごとにまったく異なる表情を見ることができます。
春には桜や山吹が庭を彩り、初夏には新緑が目に鮮やかです。夏の盛りには木陰と水辺が涼しげな風情を演出し、秋になると紅葉が庭全体を包み込みます。そして冬には雪化粧をまとった庭が静けさとともに凛とした美しさを見せてくれます。
これらの変化は、訪れる人の心に静かな感動を与えるだけでなく、自然との共生という日本文化の価値観を象徴するものです。
また、四季を表現するためには、植栽の選定だけでなく、石や水の配置、園路の設計なども工夫されます。例えば、紅葉が映えるよう背景に常緑樹を植えたり、水面に落ち葉が浮かぶ様子が美しく見えるよう池の角度が調整されていたりと、細部にまで配慮が行き届いています。
ただし、美しい四季を保つためには手入れが欠かせません。剪定や苔の管理、落ち葉の掃除など、庭師の手による日々のメンテナンスがあってこそ、その季節感が生きるのです。これは日本庭園のデメリットとも言えますが、それだけに訪れる人が感じる美しさには価値があります。
このように、四季の移ろいを取り入れた日本庭園は、自然をただ眺めるのではなく、共に生き、心を通わせる空間です。季節が変わるたびに足を運ぶことで、庭と自分との新たな関係が築かれていくでしょう。
日本庭園の種類ごとの歴史と魅力

- 日本庭園の歴史から見る様式の変化
- 日本庭園の魅力を感じるための視点
- 池泉庭園と舟遊式庭園の関係について
- 枯山水と禅の思想が生んだ庭園美
- 露地庭園が表す侘び寂びの世界観
- 設計に見る日本庭園の特徴と工夫
- 現代に受け継がれる日本庭園の価値
日本庭園の歴史から見る様式の変化

日本庭園の様式は、長い歴史の中で時代ごとにその姿を変え、文化や思想とともに発展してきました。それぞれの様式には、その時代の価値観や社会背景が色濃く反映されています。庭園を深く理解するためには、その変化の流れを知っておくことが大切です。
古くは飛鳥・奈良時代に中国から庭園文化が伝来し、当時の貴族たちは邸宅に池を設けて、そこに山や島を模した造形を加えて楽しみました。これが後の「池泉庭園」の原型となります。平安時代に入ると、貴族たちの屋敷である寝殿造に付属する形で「池泉舟遊式庭園」が発展しました。広い池に舟を浮かべて遊び、音楽を奏でるような優雅な生活様式がそこにはありました。
鎌倉時代になると、武家政権の台頭とともに実用的で簡素な「書院造庭園」へと移り変わります。この時代には禅宗の影響も強まり、「枯山水庭園」という水を使わない様式が登場します。特に室町時代には、精神性を重視する枯山水が広く普及し、抽象的かつ象徴的な表現を追求する庭が数多く生まれました。
安土桃山時代から江戸時代にかけては、茶の湯の流行とともに「露地庭園」が発展します。茶室に向かうまでの空間として、飛石や手水鉢が配置された露地は、精神的な準備の場として重要視されました。そして江戸時代には、大名たちが趣向を凝らした広大な「大名庭園」を築き、池泉回遊式庭園が主流となります。これにより、庭園は公的な接待や文化の舞台としても機能するようになったのです。
近代以降は西洋の庭園文化の影響を受けつつも、日本らしさを失わない「和洋折衷庭園」や「自然風景式庭園」など新しいスタイルも登場しました。このように、日本庭園は単なる風景ではなく、その時代の思想や価値観を映す「歴史の鏡」としての側面を持っているのです。
日本庭園の魅力を感じるための視点

日本庭園の魅力をより深く味わうためには、ただ見て美しいと感じるだけではなく、その背後にある意図や工夫に目を向けることが大切です。実際、日本庭園は見た目以上に多くの意味や哲学を内包しており、それを意識することでまったく違った感動を得られます。
まず注目したいのが「空間の使い方」です。日本庭園では、あえて空白や余白を作ることで、自然の中に調和と緊張感を生み出します。このような設計は、西洋のように装飾で埋め尽くす庭園とは一線を画します。たとえば枯山水庭園では、砂利の広がりが空や海を象徴しており、その静けさが見る者の心を落ち着かせます。
次に、「借景」という技法も魅力の一つです。これは庭園の外にある自然の山や建物などをあたかも庭の一部であるかのように取り入れる手法で、限られた敷地でも広がりを感じさせる工夫です。視点の誘導や遠近感の演出により、実際よりもはるかに大きく感じられる庭園も少なくありません。
また、時間の流れや四季の移ろいを体感できるのも日本庭園の特徴です。春の新緑、夏の涼やかな水音、秋の紅葉、冬の雪化粧と、訪れるたびに違った表情を見せてくれます。これは人工的に作られた空間でありながら、自然とともに生きる庭の思想が貫かれているからです。
ただし、日本庭園の魅力は一見してわかりづらい場合もあります。特に現代的な感覚からは、何もない空間や抽象的な石の配置が退屈に感じられることもあるかもしれません。そうしたときは、「なぜこうなっているのか」と考えてみることで、設計者の意図や日本文化の価値観に触れることができるはずです。
このように視点を変えて眺めることで、日本庭園の持つ奥行きや美学、精神性をより深く理解できるようになります。それが、日本庭園を単なる観光名所ではなく、心を通わせる場所として楽しむ第一歩になります。
池泉庭園と舟遊式庭園の関係について
池泉庭園と舟遊式庭園は、日本庭園の中でも密接な関係を持つ様式です。どちらも池を中心に据えた設計であるという点では共通していますが、鑑賞の仕方や庭園の目的に違いが見られます。両者の関係を理解することで、日本庭園がどのように発展してきたかがより立体的に見えてきます。
池泉庭園とは、広い池とそれを囲む築山、石組、橋などで構成された庭の様式で、平安時代から発展してきました。その中でも特に初期に見られるのが「舟遊式庭園」です。これは庭園の中を歩いて回るのではなく、舟に乗って池の上から景色を楽しむ形式で、貴族の優雅な生活様式と密接に結びついています。
平安時代の貴族たちは、自らの邸宅に大きな池を作り、そこに舟を浮かべて詩を詠んだり、音楽を奏でたりして過ごしました。たとえば、宇治の平等院や京都の大覚寺に見られる大きな池は、まさに舟遊式の名残を今に伝えるものです。池の中に中島を設けたり、舟を接岸するための舟着きを備えるなど、舟からの視点を重視した構造が特徴的です。
やがて時代が下ると、池泉庭園は「回遊式」へと進化していきます。これは池の周囲に園路を設け、歩きながら異なる角度から景色を楽しむスタイルです。舟ではなく歩くことで庭全体を体験するという点で、より多くの人が楽しめるようになりました。舟遊式庭園は広大な池が必要であるため、限られた敷地では実現が難しく、その分、回遊式庭園は場所を選ばずに発展しやすかったのです。
現在では、舟遊式庭園を体験できる場所はごく限られていますが、歴史的価値は非常に高いといえます。一方で、池泉庭園は形式を変えながらも現代に受け継がれ、多くの庭でその姿を見ることができます。このように、池泉庭園と舟遊式庭園は、同じ水を主役にしながらも異なる鑑賞体験を提供する庭園様式であり、それぞれの背景や構造を知ることで、庭を見る楽しみ方がさらに広がっていくでしょう。
枯山水と禅の思想が生んだ庭園美

枯山水庭園は、石や砂だけで自然の景観を表現する独自の様式であり、日本文化の中でも特に哲学的な深みをもつ庭園です。その背景には、鎌倉時代から室町時代にかけて広まった「禅」の思想が深く関わっています。禅では、言葉や形にとらわれず、物事の本質を静かに見つめることが大切とされており、枯山水の簡素な構成は、まさにその精神を具現化したものといえるでしょう。
この庭園では、白砂が水を、石が山や島を象徴します。視覚的には非常にミニマルな造形ですが、それがかえって見る人に豊かなイメージを与えることが特徴です。たとえば、京都の龍安寺にある石庭では、15個の石が白砂の上に慎重に配置されていますが、一度にすべてを見ることはできません。この「見えないものを想像させる構成」もまた、禅の無常観や悟りの境地に通じるものがあります。
また、枯山水には、静寂の中で自己と向き合う空間としての役割もあります。これは、単なる庭の装飾ではなく、精神修養の一環として設計されているという点で、西洋の庭園とは大きく異なります。訪れる人は、整えられた砂紋や石の配置を前に、思索を深めたり、心を落ち着けたりする時間を持つことができます。
一方で、こうした抽象的な表現は、馴染みのない人には難解に感じられるかもしれません。けれども、無理に意味を理解しようとせず、空間そのものと静かに向き合うだけでも、十分に枯山水の美しさを感じることができるでしょう。
このように、枯山水は禅の思想を背景に、見る人の心に静かな余韻を残す、奥行きある庭園美を提供してくれる存在です。
露地庭園が表す侘び寂びの世界観

露地庭園とは、茶室へ至る道に設けられた小さな庭であり、日本の美意識「侘び寂び(わびさび)」を最も体現した空間のひとつです。侘びとは、質素で簡素な美を愛でる感覚、寂びとは、時を経たものに宿る深い味わいを指します。この2つの感性が合わさることで、露地はただの通路ではなく、精神的な準備を促す「導入の場」となっているのです。
茶の湯では、客人を迎えるための心配りが空間全体に表れます。露地はその象徴ともいえ、飛石、手水鉢、蹲踞、石灯籠などが配置され、自然と一体となった控えめな景観が広がります。これらの配置にもすべて意味があり、形式や流派によって微妙に異なる設計がなされています。たとえば、飛石の並び方には客の歩幅を考慮した細やかな配慮が込められています。
また、露地にはあえて「未完成」の美が表現されています。整い過ぎず、少し崩れた石組や、落ち葉が残された小道などが、それぞれの時間と風景を物語っているようです。これは、西洋の庭園に見られる完璧さとは対極にある発想であり、日本文化が自然と共にあることを尊ぶ姿勢を表しています。
ただ、露地庭園は非常に繊細な設計で成り立っているため、管理には細心の注意が必要です。苔の保護や季節の植栽の入れ替え、雨の日の排水対策など、目には見えない多くの配慮が求められます。こうした手間があるからこそ、その簡素な美が際立ち、訪れる人の心に静かに響くのです。
露地は小さな空間でありながら、日本人の精神文化の核心を感じ取れる場所です。自然の中に身を置き、静けさと向き合うひとときこそが、この庭の最大の魅力といえるでしょう。
設計に見る日本庭園の特徴と工夫
日本庭園の設計には、単なる景観作りを超えた細やかな工夫が随所に施されています。それは「自然を写しながら、より美しく整える」という思想のもとで成立しており、人工物であるにもかかわらず、あたかも自然そのもののような調和を感じさせるところに日本庭園の真骨頂があります。
まず特徴的なのは、「非対称の美」です。西洋庭園では左右対称に整えられることが多いのに対し、日本庭園ではバランスの中に不均衡を取り入れ、自然な景観を演出します。石の配置、植栽の高さ、水の流れなども、見る角度によって印象が変わるように設計されており、動きのある風景が楽しめます。
また、「視線の誘導」も重要な設計技法の一つです。たとえば、庭の正面にあえて石を一つ置き、その向こうに流れる小川や遠景の山を配置することで、見る人の目が自然と奥へと誘われます。これにより、庭は実際の広さ以上のスケールを感じさせる構成になります。こうした視覚効果を意識した設計は、「借景」という技法とも結びついています。
そしてもう一つ注目したいのが、「音」や「香り」など、五感を使った演出です。水の流れる音、風に揺れる葉の音、苔の香り、湿った石の質感。すべてが庭を構成する要素として組み込まれており、訪れる人がその空間に没入できるよう工夫されています。
ただし、これらの設計が意味を持つのは、適切に維持管理されてこそです。植栽の成長、苔の広がり、石の風化など、自然とともに変化する素材を扱う日本庭園では、時間の経過もデザインの一部として取り込む必要があります。そのため、設計段階から「経年変化」を見越した工夫が求められるのです。
このように、日本庭園の設計には、見えない部分にまで気配りが行き届いています。それこそが、表面的な美しさだけではない、日本庭園ならではの奥深さを生み出している要因だといえるでしょう。
現代に受け継がれる日本庭園の価値
現代社会においても、日本庭園の価値は失われるどころか、むしろ新たな視点で再評価されつつあります。その理由は、日本庭園が単なる風景の美しさを超えて、精神的な癒しや文化的な深みを提供する空間として、多くの人々に求められているからです。
都市の喧騒やデジタル化が進む中で、人々は静けさや自然との触れ合いを求める傾向にあります。日本庭園は、そうしたニーズに応える空間として見直されており、ホテルや商業施設、公共空間などにも積極的に取り入れられています。特に枯山水や露地のような簡素な様式は、限られたスペースでも設置可能で、現代建築との調和もとりやすいという利点があります。
また、サステナブルな観点からも、日本庭園の価値は高まっています。苔や在来種の植栽、水の再利用を考慮した遣水(やりみず)の構造などは、環境への配慮が自然と組み込まれた設計となっており、持続可能なデザインとして注目されています。
一方で、伝統的な技術や知識を継承していくためには、専門の庭師や作庭家の育成が欠かせません。現在では、若い世代の職人やデザイナーが、伝統を踏まえながらも新しい感性を加えて日本庭園を創造しています。こうした動きによって、日本庭園は「守るべき遺産」であると同時に「進化する文化」として継続しているのです。
加えて、海外でも日本庭園は高い評価を得ており、多くの国で模倣されたり、日本から専門家が招かれて本格的な庭園が造られたりしています。これは、日本の自然観や美意識が国境を越えて共感を得ている証しともいえるでしょう。このように、現代における日本庭園の価値は多面的であり、癒し、環境、文化、芸術といった多くの側面からその魅力が見直されています。未来に向けて、日本庭園はさらに広がりを見せる可能性を持っているのです。
日本庭園の種類ごとの特徴と鑑賞のまとめ
- 日本庭園には池泉庭園・枯山水・露地など多様な様式がある
- 池泉庭園は水を主役にしたスケール感のある庭園様式
- 枯山水庭園は石と砂で自然を象徴的に表現する抽象的な様式
- 露地庭園は茶室への道として侘び寂びを体現した空間
- 庭園様式は自然や思想をどう形にするかという基本設計の型
- 池泉庭園には舟遊式・回遊式・観賞式の鑑賞法がある
- 枯山水は禅の思想と結びつき、精神性の高い構成をもつ
- 露地庭園は心を整える導入の場として茶道に欠かせない存在
- 築山林泉庭園は人工の山や林で自然の風景を再構成する
- 縮景式庭園は実在の名勝地などを庭に圧縮して再現する
- 蓬莱式庭園は神仙思想に基づき不老不死の理想郷を表現する
- 浄土式庭園は極楽浄土を象徴する池と阿弥陀堂の配置が特徴
- 日本庭園は四季の変化を映すことで感性に訴える構造になっている
- 設計には視線誘導や借景、非対称の構成などの技術が用いられる
- 日本庭園は現代においても癒しや文化的価値として再評価されている
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